月夜の兄弟。
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「冷えますよ」開け放たれた窓から見上げた月は、まるで夜空に空いた穴のように円かった。湯呑みを傾けるばかりの兄の肩に手を置けば、ひやりとした肌が薄い部屋着越しにも感じられる。「兄さん」「なら、お前がそうやって触れていろ」振り向きもせずに言われれば、動けなくなる。三月はそっと頷いた。
月夜の兄弟。
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「冷えますよ」開け放たれた窓から見上げた月は、まるで夜空に空いた穴のように円かった。湯呑みを傾けるばかりの兄の肩に手を置けば、ひやりとした肌が薄い部屋着越しにも感じられる。「兄さん」「なら、お前がそうやって触れていろ」振り向きもせずに言われれば、動けなくなる。三月はそっと頷いた。
なんてことはない、
「騎兵兄貴が怪我したって聞いたら、うさみみは喜多路町まで飛んでくよ!」
っていう、ただそれだけの話。
騎兵な兄貴は、元小学校教員です。
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磨り減った赤鉛筆を置き、三厳は散らばっていた回答用紙をまとめた。ぐるり首を回したところで、かたんと卓上に湯呑みが差し出される。「まだ寝ていなかったのか」「テスト週間だから。でも、これ飲んだら寝ます」ホットミルク入りのマグを持ち上げてみせた弟に一つ頷き、三厳は湯呑みに手を伸ばした。
たぶん、10年くらい前の兄弟。
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宿題の書き取りをしていた弟が困惑した顔を上げたので、宇佐美三厳はどうしたと声をかけた。「兄さん、この字、あってる?」同じ字を繰り返すうちにゲシュタルト崩壊を起こしたらしい。大丈夫だ、と言っても不安そうにしているので、見ていてやるから、と先を続けさせた。 ...これはこんな字だったか?
うさみみと、お姉ちゃん。
Twitter的140字小話がマイブーム。
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しょりしょりと、銀のナイフが林檎の皮を剥いていく。ちょいちょいと動く指の動きに合わせ、宇佐美三月の頭上で黒いウサ耳が小さく揺れた。「瑞希さんも食べますか」「面倒でないなら、頂戴」「大丈夫ですよ」しょりしょり、蛇の舌のように皮が落ちる。「三月」「はい」「ウサギさんにしてね」「はい」
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